受賞作「水道」 | 月刊奈良 | 遥かなる地中海 | 詩誌『樹音』 |
日本ペンクラブ会員 詩作を本格的に始めたのは1989年。原爆投下時、自ら被爆しながら人力でポンプを動かし市民に水を供給した話をテーマにした詩が、アメリカ在住中、国立図書館主催のコンクールで96年度審査特別賞に輝きました。詩は爆撃機エノラゲイから写したキノコ雲の写真の上にプリントされ、広島市水道資料館に展示されています。 詩集[夏至祀」「いんであんさまあ」「いんであんさまあ そのに」青シリーズの詩を『せとうちタイムズ』連載。第4詩集「4R3分59秒の青」発行 |
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苦い雨
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森にいこうよ
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十三夜(豆名月)
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2011年6月22日尾道市立瀬戸田小学校朝読4年 橋本和子氏朗読 |
2011年6月16日尾道市立南小学校朝読6年 橋本和子氏朗読 |
2011年6月13日尾道市立南小学校 朝読5年
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春一番
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2月の海伯方の塩アイスを
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月の砂漠
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らいおん |
見事なたてがみをしたらいおんが 爪を舐めている 獲物を平らげた後なのだろうか 動きは止めず燃えるような火星色の横目で あたしを見た 思わずドキン だって大人なんだもの こんにちは 黙って澄まして通り過ぎる ずっと先へ行って振り返ったら 地平線まで遮るものはなにないのに 午後の熱い吐息が、ゲボッと砂塵を巻き上げ クルクル回っているだけ ままが 悪いらいおんに気をつけなさいって マンハッタン25番アベニューの交差点は 汗の臭いが充満している |
青いぽったん そいつは海から湧きあがると 空を一杯ひしめきあって 熟したら ぽったんぽったん 仔猫よりやわらかく 幸せの素を一杯ふくんで 塩っぱかったらどうしよう そこで イルカとわたし ちょっぴりかじったのです たまんなく美味しかったので 片っ端から 食べちゃいました 月は やっぱり丸いのが旨い 腹を空に向けて 浮かんでいたら なんとも嬉しくなって ぽったん ドコモの支払いを忘れちゃいました |
なんたって島の朝 両手をひろげて空を吸おう 指先から青く染まるよ 海と空が合わさったところに 秘密があって 実は宝物が隠されている 船を出して行ってみよう 父さんに叱られたっていいじゃない 母さんはにんまり笑って 干しタコなんかくれるんじゃないかな 父さん、行きそこねたんだからね おまわりくんが追いかけてきたら 乗せるのさ コンピュータがなくなっても平ちゃら でも居眠りはまずい この辺りの流れはきまぐれ さあ風がきた |
月のない夜に 09.7.9
窓を開けて 漆黒の闇に埋もれた島を抜ける きらめく夜空を上へ上へ すぐに星が多くなる 昼間負った傷の血は止まっていないが かまうもんか きみは来ているか 天の川を越えてさらに上へ
風を切って踊る きみは戸惑いながら 天の川を頭に 幾重にも回転する この間だけ痛みは消え 華麗に裾をひるがえし 舞い上がる
痛手を受けても負けたくなけりゃ 怯むわけにはいかぬ きみは知っている 傷がもうすぐ塞ぐことも 闘いぬくことも
急降下する 笑顔で流れ星にまたがり |
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月のない夜 月のない夜 青猫の叫びに誘われて ポーチに出る 風が止んだら 星の衣づれする音が きこえた 天上では きらめく星が溢れて 雫になって降りかかったから 木苺の茂みを飛びこえ 浜辺に走り 両手を広げて 星にまみれた 月のない夜 ネットを読むのに飽きたら 窓を開けよう 満天の空では 磨きぬかれた星のそばで おいでおいでをする そこまで駈けてゆくのはわけないが 2つ3つ星を踏んで 痛いぞなんて喚かれたら 真っ逆さまに落ちるかもしれない 水仙の香り 星のかおり |
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処方箋その1 |
むかし 海と空はせめぎあって 水平線をさだめたそうな アダムとイヴは 意識レベルが同じでないから 色あせないコメディが生まれた おまえのなかの 相反するおとことおんなに 苦悶するなかれ 新しい意識が生まれるなら きらめく流星を 水平線の彼方に落すことはない 手をのばして掴み 男らしく生き 女らしく振舞えばいい |
それとも男であることを忘れたおんな |
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膝小僧を抱いて おまえは目を閉じる 深い海の底に落ちてゆくような 孤独のけばだった気持ちを噛みしめ 決して海底に着きやしない いつもの繰り返しを 観覧車のようにゆっくりと 誰もいないゴンドラは 波間を漂い それから疲れた頭のなかに つま先立ちして落ちていった 眠っているのは おとこ それとも男であることを忘れたおんな |
水 道 1945年8月6日 日陰さえ消し去られた 広島の街に 赤子をも焼き尽くした神も目を覆う 地を黒く染めて 水道水は飛び散る あの時 すぐ牛田浄水場に駆けつけた 非番の男たち ポンプは人力で動かし 辛うじて即死を免れた市民の 渇きを助けた 水を飲むとやけただれた皮膚はふくれ はじけまくれて息絶えたひと ひと ひと 力尽きても交替で ポンプを動かし続けた職員たち 水は送りつづけられ 壊れた水道管から したたり落ちた |
広島市水道局のホームページへ |
Water Supply On Augasut 6,1945 In the streets of HIROSHIMA the flush erased all the shades burned even the babies to the ashes Splashing water from the pipes wetted the ground black which god wouldn't look at At that time to Ushita Purification rushed off-duty men who operared the pump by human power and quenched the thirsty citizens who barely escaped instant death When they drunk water their hideously burned skin got swollen they fell down and exploded one after another The exhausted staffs never cease working the pump alternately Water kept supplying drippig from the droken pipes |
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※この詩は、1996年、アメリカ国立図書館主催のコンテストで審査員特別賞を受賞 「八月六日の水道」を97年原爆記念日に朗読しました。 |
一番電車 白くって ざらついた別れの朝 渇いた心を両手で抱えて 目覚めたばかりの原っぱにいる 黒い鞄に詰め込んだ思い出は ここで捨てるとしよう 朝露を吸って 元気を取り戻したら 一番電車に乗って遠くに行こう 青空を切り抜き 胸のポケットに入れて 涙が出そうになったら 空に舟を浮かべて吹き飛ばそうじゃないか 電車は朱雀門を走る |
青い乳房 裸身を青く染めてしまう めまいの朝 はだしで砂漠を走る すぐに追い風が髪を解(ほど)き 白骨化したタンブラウィードが あたしの影を切断して転げてゆく 左手に白いグローブ 右手にすでに青く染まったグローブをして リングの上に立っている まだ朝の時だというのに 乾いた熱風がむき出しの乳房を焙る ゴングが鳴るまで パンチを発し続けた右手は 小指が麻痺して せまい皮袋の中でじんじん呻いている 風が吹き抜ける 走らなきゃ |
アメリカンコーヒー 赤茶けた太陽が フランシス婆のまるい背中に 落ちてゆく 強制収容所では きいろい牝犬がおりましてね かのじょが強制収容所に? アフリカンのばあちゃんが 大きくしたんだよ 親父さんは開戦前にいなくなったのさ ……殺されちまったんだ ちいさい頃だよ 手広く畠をやってた日本人でね 南カリフォルニアの熱風が 肌を刺す 頭の中がどんどん乾いてゆく 有刺鉄線でかこまれた 水道もない 冬は凍りつく所でございました 父さんはあたくしをとてもとても 可愛がってくれました コーヒーを召し上がってくださいな 日本のはなしもっと聞かせてください フランシス婆の人懐っこさは 薄いコーヒーの砂糖味だけ舌に残して 八月のアメリカンコーヒー |
※この詩は1997年アメリカ合衆国国立図書館コンテストで入賞。
『WITH FLUTE AND DRUM AND PEN』に収録
三月の薔薇(S嬢に寄せて) その薔薇は 誰よりも寡黙 唇をきゅっと結んで 冷たい風が吹きつけても 肩でかわす 厳冬を超えた薔薇は いま頬をピンクに染めて 朝陽にむかって 深呼吸する ほつれたうなじの青い後れ毛 そよ風と戯れる光沢ある若葉 凍った土がようよ溶け 黒い大地から小川のせせらぎが溢れると ひばりは春一番の便りを告げに来る 薔薇は指にとまらせ 東の国の唄を聴く 古都フィラデルフィアの森のなか ブレンマーアベニューの突きあたり 石積みゴティックの城の奥深く 雪より白い薔薇は 朝の霊気を従え 今花咲かんとしている 朝露に映る青い地球を 曇りない瞳にキャッチして 三月生まれ未来の華 |
約束 |
六月の海 |
復活
天空の裂け目から |
3R2分59秒の青 ゴングは間もなく鳴る 目を閉じてマウスピースを噛みしめ 息をゆっくり吐く 攻撃する筋肉と 正確な判断できる脳を支える バネのきいた骨以外 なにもいらない 裸身を隠すものはなく かじかんだ乳頭に吹きつける 苦い寒風 KOする瞬間だけをインプットする 瞳には乾いた砂浜が続いていて 青い海は引いてしまった フックに引っかけられる前に 形のよい顎を叩き割る 間合いを入れずに追い立てるのは 殺気だけ おまえの呼吸を計り 突き刺すか刺し違えるか 残り25秒のブザーが鳴り 駆け登るエクスタシーが クリトリスを勃起させ 息を詰めて脳天をねらう リードジャブから 全体重を左拳にかけ 空を飛ぶ 鮮血の海に沈む160ポンドの肉 観客の前で許される殺人 犯行と同時 死から解き放たれる歓喜 暴発する射精 3R2分59秒の青 |
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四月二十四日の電車 JR事故に寄せて
光あふれる朝 今日は特別な日 かの女の誕生日 大学で落ち合ってプレゼントを渡す 宝塚から快速に乗って 驚く顔 声 しぐさ あれやこれや 浮かべて心が躍る 電車は俺の心のように 速くって伊丹でオーバーランした フラッシュバックする笑顔 想いが募り空を飛んでるよう 一瞬意識がくだけて 人も荷も暗闇に墜ちた 俺のカバンの上に重なった人・人 ああ 手が届かない 今日は誕生日 手渡さなきゃ 光輝く朝 曇りない空に昇ってゆく 指に結びたかった薔薇を残して |
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新春のきらめき
大晦日の夜 百八の願いを叩いた 煩悩を打ち消すのは嫌だから が9個で詰まった 情けない たったそれだけ そこで自分に当てはめないで 成人式に来るあの娘なら・・・ 大学の先輩ならば・・・ 大空に舞い上がっている鳥は 雲より高く飛びたいだろうか いや 春が早くきてほしいだろう 屋根を突き破った想いは 宇宙にひろがる 戦乱は嫌だな サーズも困る 津波はなおいけない 青い地球は 美しい星であってほしい 百八の願いを叩いた きらめく新春が来ますように |
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